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電子誘電体が圧電性と強誘電性を示すことを実証 ―圧電性と強誘電性を導く新たな機構の提案―

カテゴリ:プレスリリース|2023年07月14日掲載


京都大学
名古屋工業大学
オックスフォード?インストゥルメンツ株式会社

概要

 京都大学大学院工学研究科 小西伸弥 研修員、田中勝久 教授、名古屋工業大学大学院工学研究科 漆原大典 助教、浅香透 准教授、オックスフォード?インストゥルメンツ株式会社 石井孝治 博士らの研究チームは、東京工業大学、九州大学との共同で、電子誘電体とよばれる酸化物の一種であるTmFe2O4という物質を対象に、物性測定、構造解析、理論計算の結果に基づいて、この物質が室温で圧電体1かつ強誘電体2となることを実証するとともに、このような誘電性3が生じる機構を原子レベルで明らかにしました。
 組成式がRFe2O4Rは希土類元素あるいは13族元素のIn(インジウム))の酸化物は鉄イオンの電荷の分布が誘電性を支配すると考えられることから電子誘電体とよばれ、特にRがLu(ルテチウム)の化合物が強誘電体であるとの報告が2005年になされました。その後、他の研究グループから、実験と理論計算に基づいて、この化合物の強誘電性を否定する論文が出されました。それ以来、この化合物の本質的な誘電性についての議論が続きましたが、結論は得られていませんでした。
 今回、本研究グループは、類似の化合物であるTmFe2O4の単結晶を合成し、X線による単結晶の構造解析や圧電応答顕微鏡4による測定などに基づき、この化合物が室温で圧電性と強誘電性を示すことを実証しました。さらに、その起源が鉄イオンにおける電子の局在化とツリウム(Tm)イオンの変位であることを突き止めました。これにより、RFe2O4の誘電性に関する上記の論争に、部分的ではありますが、一応の決着をつけることができました。今後は、同様の機構で強誘電体?圧電体となる新物質の開拓や、こうした物質のスイッチやメモリーなど実用機器への応用が期待されます。
 本研究成果は、2023年7月12日(米国東部標準時)に米国物理学会の国際学術誌「Physical Review B」にオンライン掲載されました。

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TmFe2O4結晶において強誘電性と圧電性が現れる機構

1.背景

 チタン酸バリウム(BaTiO3)やチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3、PZTと略称される)に代表される強誘電体や圧電体は、キャパシター、アクチュエーター、センサーなどとして日常生活においても広く用いられています。これらの化合物では、高温ではTi4+やZr4+が6個の酸化物イオンに囲まれた正八面体の中心に存在しているため正電荷と負電荷の重心が一致し、電荷の偏り(すなわち、電気双極子モーメント5))は存在しません。しかし、温度が下がると、これらのイオンの電子配置が起源となりTi4+やZr4+が正八面体の重心の位置からずれ、同時に八面体もその方向に伸びた構造となり、電気双極子モーメントが生じます。結晶中のTi4+やZr4+がすべて同じ方向に偏るので、これらの化合物では大きな自発分極6)が現れます。これが強誘電性や圧電性の起源です。
 一方、本研究の対象である一連の酸化物RFe2O4は、図1に示すように鉄イオンから成る2次元層が2枚(これはW layerとよばれます)とRイオンから成る1枚の2次元層が規則的に積み重なった結晶構造をとります。ここで、鉄イオンは2価と3価のイオンが等しい数だけ存在し、同時に、鉄イオンは三角形の対称性をもって平面状に配列するため、図2(a)に示すように安定なイオンの配置が存在しません。これを電荷のフラストレーションとよびます。同時に鉄イオンは磁気モーメント7)を持ち、しかもこれらには互いに逆方向を向くような磁気的相互作用が働くため、図2(b)に示すように磁気モーメントの配列にも安定な構造が存在しません。こちらは磁気的フラストレーションとよばれます。

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図1:RFe2O4の結晶構造    図2:(a)電荷のフラストレーションと(b)磁気的フラストレーション

 

 温度が下がると電荷分布と磁気モーメントの配列はある種の規則的な構造をとるようになりますが、その際、図3のように隣接する2枚の鉄イオン層(W layer)のうち片方はFe3+が過剰、もう一方はFe2+が過剰となれば磁気的なエネルギーが最も低くなることが示されています。この構造では2枚の鉄イオン層がそれぞれ相対的に正電荷と負電荷を帯びますので、それらの間に電気双極子モーメントが形成されます。これらがすべて同じ方向を向いて並ぶことにより強誘電性が生じるという提案が2005年にLuFe2O4に対してなされました。これは、上記のチタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛で見られる強誘電性の機構とはまったく異なるもので、それ以来、LuFe2O4とその関連物質は、鉄イオンにおける電子の局在化と分布状態が起源となって強誘電性が生じると考えられることから電子誘電体あるいは電子強誘電体とよばれるようになりました。
 これに対し、さまざまな実験や理論計算に基づき、LuFe2O4において鉄イオン層間に電気双極子モーメントは形成されるものの、それらは異なるW layer間では互いに逆方向を向くため強誘電体ではなく反強誘電体が安定相となるとの主張や、そもそも電荷分布は図3のようにならないとするモデルの提唱などがなされ、一連のRFe2O4の本質的な誘電性については、いずれの解釈が正しいのか、決着がついていませんでした。

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図3:鉄イオン層の電荷分布

2.研究手法?成果

 本研究ではRFe2O4の一種であるTmFe2O4を対象に、単結晶の合成、構造解析、誘電性の測定、理論計算を実施しました。誘電性の測定には圧電応答顕微鏡を用い、一定の直流電場を加えたときの結晶の歪みと誘電分極の向きを調べました。このような測定を電場の大きさを変えて行い、誘電分極の向きならびに結晶の歪みと電場との関係として図4のような結果を得ました。いずれの図においてもループが見られますが、これらは強誘電性、圧電性の証拠となるものです。
 また、構造解析では、単結晶X線回折8、収束電子回折9などの測定を用い、結晶が反転対称性10の破れたCmという空間群を持つことを見いだすとともに、鉄イオン層(W layer)における電荷の分布状態を明らかにしました。
 このような実験結果に基づき、2価と3価の鉄イオンの電荷分布(局在化した電子の分布)がTm3+イオンの変位と相関し、両者が電気双極子モーメントの規則的な配列を導いて、結果として強誘電性が安定化するというモデルを提案しました。さらに、レーザー干渉計11を用いて、圧電性の指標となる圧電定数の値を求めることにも成功しました。このように、TmFe2O4単結晶が室温で圧電体ならびに強誘電体となることを実証するとともに、その原子レベルでの機構も解明することができました。実験的に導かれた結論は、密度汎関数法12を用いた誘電体相のエネルギーの計算によっても裏付けられました。
 加えて、この結晶は強い電場を加えると局在化した電子の秩序状態が壊れて無秩序な状態となるため圧電性や強誘電性が消失し、逆に電気伝導が生じること、この現象が電場の強さに応じて可逆的に起こることも見いだしました。同様の現象はLuFe2O4において電場誘起の電気伝導率の劇的な変化として観察されていますが、電場による強誘電体-導電体相転移を見いだしたのは今回が初めてです。

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図4:電場と誘電分極の向き(上図)および歪み(下図)との関係

3.波及効果、今後の予定

 すべてのRFe2O4系電子誘電体ではなくその一種であるTmFe2O4のみではありますが、この化合物が圧電体かつ強誘電体であることを明確に示したことにより、RFe2O4の誘電性に関するこれまでの論争に、部分的ではありますが、一応の決着をつけたことになります。今後は、同様の誘電性が他のRFe2O4、すなわち、LuFe2O4やYFe2O4などでも観察されるのかを明らかにし、一連の電子誘電体の本質的な誘電性とそれが生じる機構を解明したいと考えています。また、同様の結晶構造を持つ酸化物は他の元素を用いても合成できるので、固溶体13)も含めて新たな強誘電体の開発につないでいく予定です。さらに、この種の強誘電体の実用的な応用の可能性についても検討したいと思います。たとえば、電場により電気的な状態が大きく変わること、また、状態の変化が電子の速やかな動きに起因することから、高速のスイッチや読み書きが速く行えるメモリーなどへの展開が考えられます。

4.研究プロジェクトについて

 本研究の一部は、JSPS科研費21H04619, 21K03431の助成を受けて行われたものです。

用語解説

1圧電体は、電場を加えると結晶が伸縮して歪みが生じる、あるいは、応力を加えると電荷が偏り誘電分極が生じる物質です。日常的には、マイク、スピーカー、エレクトリック?ギター(エレキギター)、時計の発振子、着火装置、インクジェットプリンター、エアバッグなど、さまざまな用途があります。

2強誘電体は圧電体(注1参照)の一種であり、自発分極(注6参照)を持ち、その向きを外部電場によって変えることのできる物質です。主に電荷を蓄えるデバイスであるキャパシターの材料として用いられます。

3固体物質に電場を加えた場合、金属などでは電子が動くことにより電気伝導が起こりますが、一部の酸化物などでは電気伝導が起こらずイオンの位置がずれたり電子と原子核の相対的な位置が変化したりして正電荷と負電荷の偏りが生じます。このような性質を誘電性といい、誘電性を示す物質を誘電体とよびます。

4圧電応答顕微鏡は、微視的な領域の誘電的性質を測定する装置です。試料を平らな電極上に置き、電極を兼ねた探針を試料の表面に触れさせ、探針と下部電極との間に電場を加えることによって、試料の誘電的な応答がどのように変わるかを検出します。

5大きさが同じで符号の異なる点電荷が一定の距離をもって対をなしているものを電気双極子とよび、電荷の大きさをq、電荷間の距離をd、負電荷を始点、正電荷を終点とするベクトルをdとすれば、電気双極子モーメントはqdで定義されます。

6単位体積当たりの電気双極子モーメントの総和を誘電分極といい、外部から電場を加えなくても自発的に形成される誘電分極を自発分極といいます。

7磁気モーメントは電気双極子モーメントに対応した物理量で、電気双極子モーメントと同様、ベクトルで表されます。電気双極子モーメントがまわりに電場を生じるのに対し、磁気モーメントは磁場を発生させます。N極とS極を持つきわめて微細な棒磁石と考えればよく、S極からN極に向かうベクトルが磁気モーメントの向きに一致します。

8空間中を波が伝わるとき、進行方向に障害物があると波はその後方に回り込んで広がっていきます。この現象を回折とよびます。X線は電磁波の一種であり、これが結晶に入射すると原子による回折を起こします。特に単結晶(一つの固体の塊が一つの結晶でできた物質)を対象にX線の回折現象を利用して結晶の構造を明らかにする手法を単結晶X線回折といいます。

9電子は粒子であると同時に波の性質も持っており、X線と同様、結晶中の原子による回折を示します。電子線を絞り込んで結晶の10 nm以下の微小な領域に照射し、回折する電子の像を円板状の領域に描いて、像の解析から結晶の対称性などを見積もる方法を収束電子回折とよびます。

10直交座標上で(x, y, z)で与えられる点Pを、原点を中心にして点Q(-x, -y, -z)に移す操作を反転操作といいます。このとき原点は反転中心とよばれ、線分PQの中点となります。ある物体に反転操作を施したとき、結果が元の構造と変わらない場合、この物体は反転対称性を持つと表現します。一方、物体の向きなどが変化する場合、その物体は反転対称性を持ちません。また、結晶構造が反転対称性を欠いていなければ、その結晶は圧電体や強誘電体にはなりえません。

11物体にレーザーを当て、反射光と入射光の干渉を解析すれば、レーザー光源から物体までの距離が精度良く見積もられます。圧電体では電場によって体積が変化するため、圧電応答に基づく結晶の伸縮を、レーザー干渉を利用して測定できます。このような原理の測定機器をレーザー干渉計といいます。

12量子力学に基づいて物質中の電子の挙動を理論的に計算する方法の一つで、電子密度が満たす方程式を解くことによって電子の持つエネルギーや運動量を求めます。

13液体に固体や気体が溶け込んだものが溶液ですが、固溶体は固体に種類に異なる固体が溶け込んだものです。たとえばNaCl(塩化ナトリウム)とKCl(塩化カリウム)はいずれも岩塩型構造を持つ結晶ですが、NaClに少量のKClが溶け込むと、一部のナトリウムイオンがカリウムイオンに置き換わって安定な結晶構造を作ります。このような物質を固溶体といいます。

<研究者のコメント>
本研究で取り上げた酸化物結晶は構造が比較的複雑であり、また、誘電体でありながら電気伝導性もあるため巨視的な測定手段で強誘電性を証明することが困難でしたが、今回、正確な構造解析、誘電応答の検出方法の工夫、理論計算と多様な角度から本化合物にアプローチして、それらの結果に基づく総合的な考察から、これまでの論争に終止符を打つとともに、強誘電性の新たな発現機構を見いだすことができました。この成果は新規強誘電体の開発に活かしたいと思います。(田中勝久)

論文タイトルと著者

タイトル:Confirmation of ferroelectricity, piezoelectricity, and crystal structure of electronic dielectric TmFe2O4(電子誘電体TmFe2O4の強誘電性、圧電性、結晶構造の実証)
著  者:Shinya Konishi, Daisuke Urushihara, Tatsuya Hayakawa, Koichiro Fukuda, Toru Asaka, Koji Ishii, Noriaki Naoda, Mari Okada, Hirofumi Akamatsu, Hajime Hojo, Masaki Azuma, and Katsuhisa Tanaka
掲 載 誌:Physical Review B
DOI:10.1103/PhysRevB.108.014105

お問い合わせ先

研究に関すること

田中 勝久 (たなか かつひさ)
京都大学大学院工学研究科?教授
TEL : 075-383-2801 
E-mail : tanaka.katsuhisa.4n[at]kyoto-u.ac.jp

浅香 透 (あさか とおる)
名古屋工業大学大学院工学研究科?准教授
TEL : 052-735-5643 
E-mail : asaka.toru[at]nitech.ac.jp

石井 孝治 (いしい こうじ)
オックスフォード?インストゥルメンツ株式会社
TEL:03-6732-8961
E-mail:Koji.ISHII[at]oxinst.com

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オックスフォード?インストゥルメンツ株式会社
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