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「デジタルフォトパターニング重合」の開発 ~樹脂特性をデジタルに操る新概念~

カテゴリ:プレスリリース|2023年06月07日掲載


発表のポイント

〇 光照射型3Dプリンターの新しい利用法:デジタルフォトパターニング重合を開発
〇 異種ポリマーをデジタルな手法でパターニングして樹脂を機能化させるという新概念を提唱
〇 ウェアラブルデバイス用樹脂開発や、デジタルトランスフォーメーション(DX)、AIなどの最先端技術とも融合可能

概要

 名古屋工業大学大学院工学研究科 工学専攻(生命?応用化学領域)の林幹大助教らは、UV照射型3Dプリンターの新しい利用法に基づき、「デジタルフォトパターニング重合」という異種ポリマーのパターニング技術を開発した(図1)。本技術では、硬/柔、弾性/塑性、親水/疎水など異なる性質を有するポリマーを、同一樹脂内で複合化することができる。昆虫?甲殻類の身体、昆虫の翅(羽)、植物など、自然界では"パターニング"を利用した機能化が当たり前になされているが、人工樹脂は均質なものがほとんどであり、これまでのように分子開発に注力した機能発現には限界がある。特に、次世代産業の中では、力学的にユニークな材料が重宝される場合が多く、例えばフレキシブルデバイスやウェアラブルデバイスでは、ある方向の力に対して柔軟性が高く、他の方向には曲げにくい設計のほうが好ましい。単一ポリマーからなる均質樹脂ではこのような複雑な性質を発現するのは難しいため、この点で本パターニング技術の優位性を活かすことができる。その他にも、親水-疎水パターニングよる局所ゲルフィルム、座屈現象(※1)に基づくモーフィング(morphing)(※2)など、均質樹脂では発現し得ないユニークな特性を示す機能性樹脂フィルムが調製可能となっている。
 これらの成果は2023526日に学術雑誌ACS Applied Polymer Materialsにオンライン掲載された。

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1. 本技術の概要.

研究の背景 

 合成樹脂に関しては、1900年代の誕生以来、樹脂は"均質であるもの"という概念が盲目的に一般化されており、新規な物性発現のためには分子開発に注力されてきた。合成樹脂が誕生して約100年経った現在では、既存物性を劇的に超越する新種のポリマー開発は困難を極める。本研究では、分子開発に焦点を当てる常識的な考え方とは異なり、「異種ポリマーのパターニング」という新概念で、樹脂物性?機能の無限の拡がりを達成するための技術を開発した。これは、「一次元バーコードと二次元バーコード(例えばQRコード)では情報量に圧倒的な差がある」、という実例と類似している。二次元バーコードでは、二軸の組み合わせにより、一次元バーコードよりも格段に多くの情報をアウトプットすることができる。本技術では、異種ポリマーの組み合わせおよびパターニング様式が自在であるため、アウトプット可能な物性のバリエーションを劇的に多様化でき、産業界の様々なニーズに応えていくことができる。

研究の内容?成果

 自然界では、硬軟層の適材適所のパターニングにより多機能な性質が実現されている。例えば、昆虫?甲殻類の身体では、それを形成するクチクラにおいて、基材であるキチンファイバーと複合化された物質の種類および量(例:水分量、タンパク質の種類)などによって、ゴムレンジ(~MPa)からガラス?無機物レンジ(~GPa)まで段階的な弾性率パターニングが表現されている。また、昆虫の翅(羽)では、なるべく軽量で高効率飛行を実現するため、特徴的なタイルパターニング構造が備わっており(ボロノイ図パターニング)、揚力を稼ぐための最適な曲げ?ねじり変形が印加されるよう潜在的にプログラムされている。本技術は、上記のように自然界でよく見られる"パターニング"の概念を人工樹脂にトレースするために開発した技術である。
 本技術に基づく樹脂調製プロセスの概要を以下に示す(図2)。第1ステップとして、架橋樹脂フィルムをビニルモノマー?光重合開始剤溶液へ浸漬し、モノマーを内包させる。第2ステップとして、UV光を用いた光重合(※3)により、内包モノマーをポリマー化する。その際、光照射型の3Dプリンター(LCDタイプ)(※4)を用いて、パソコン上で描いた光照射箇所のデザインをフィルム上に転写し、重合を箇所選択的に進行させる。その後、未反応モノマー除去?乾燥を経て、異種ポリマーが光照射パターンに沿って複合化したパターニングフィルムが得られる。本方法では、複雑な構成ポリマーの合成は不必要であり、デザインソフトを用いてデジタルな方法で多様なパターニングが可能である。パターニング界面は化学的に連結されるため接着プロセスが不必要であるため、大変形での界面剥離の問題もない。

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2. デジタルフォトパターニング技術によるパターニング樹脂調製の概要.

 

 上記技術に基づき、力学的異方性材料や、親水-疎水パターニングよる局所ゲルフィルム、座屈現象に基づくモーフィング(morphing)などユニークな特性を示すパターニング樹脂が調製可能となった。最も単純な例として、ゴム状母材樹脂中に、ガラス状ポリマーをパターニングしたフィルムの箇所選択的な変形について示す(図3a)。ここではN,N-ジメチルアクリルアミドをパターニング部で重合させた。N,N-ジメチルアクリルアミドの重合体はガラス転移温度(※5)>>室温のガラス状ポリマーであり、本ポリマーを変形と平行に周期を持つストライプ状にパターニングした。変形中では、ガラス転移温度<<室温で易変形なゴム状母材樹脂部のみ伸長し、ガラス状ポリマー部の変形は起こらないという箇所選択的な変形が観られた。なお、N,N-ジメチルアクリルアミドの重合体は親水性ポリマーであるため、疎水ポリマーのフィルムにパターニングして水に浸漬させると、固体フィルム上に局所ゲルが生成する(図3b)。通常、ゲル材料と固体ポリマーの接着は困難であるため、局所ゲルフィルムの作成は本技術の優位性の一つである。

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図3. (a) パターニングフィルムの箇所選択的な変形の様子. (b) 水浸漬により得られる局所ゲルフィルム.

 

 次に、パターニングフィルム全体に対して、最大ひずみ300%でサイクル試験を行うと、フィルム面外の表裏に周期的なリンクル構造(※6)が形成された(図4)。ガラス状ポリマーではすぐに破壊されてしまうため、ここでは大変形可能な塑性変形ポリマー(塑性変形:変形が元に戻らない性質)をパターニングした(モノマー種としてはアクリル酸tert-ブチルを重合)。具体的に、最大300%のひずみでのサイクル試験において、母材架橋樹脂部は残留ひずみ20%(※7)、パターニング部は250%の残留ひずみを示すものである(母材部?パターニング部を切り出して測定)。
 このパターニングフィルムでは、伸長後の収縮(除荷)過程において、塑性変形性のパターニング部では応力が早々と喪失し伸び切ってしまうが、弾性的な母材樹脂部では長さが回復していく。このように、除荷過程における各部位の"戻りやすさ"が異なることに起因して、弾性変形部の伸長回復に追従できない塑性変形部が座屈し、リンクルが発現する。最大ひずみに応じたリンクル周期(ピッチ)の制御も達成しており、本知見はボトムアップでの立体成形(morphing)技術としての応用が期待できる。

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図4. 弾性?塑性ポリマーのパターニングによるモーフィング挙動(リンクル形成)

社会的な意義?今後の展望

 将来構想としては、異種ポリマーの自在のパターニングにより、特に力学的性質(強靭性?ダンピング(制振)性?力学的異方性?摩擦特性)に関する機能開拓を行い、先端産業分野(例えばロボティクス?ドローン?ウェアラブルデバイス?フレキシブルデバイスなど)などへの展開が可能である。
 さらに、本技術には、構成ポリマーの性質さえ把握しておけば、計算科学?シミュレーションの力を借り、各パターニング様式に応じた最終的な性質をあらかじめ設計することができるという利点もある。これは、物性をデジタルに操るという新しい概念であり、デジタルトランスフォーメーション(DX)やAIを含む近年の最先端技術とも相性が良い。情報系や機械系など他分野との研究連携を推し進めることにより、単一ポリマーからなる均質樹脂では成し得ない機能発現につながることが期待される。

謝辞

 本研究は国立研究開発法人新エネルギー?産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、官民による若手研究者発掘支援事業(JPNP20004)の一環として行われました。

用語解説

(※1)座屈現象
構造物に加える荷重を増加させていくと、荷重限度を超えると急激に変形が増大する現象。例えば、棒状の物体をその軸方向に押し込んだ時、それが縮む代わりに曲がる(たわむ)という変形が生じる。

(※2)モーフィング(morphing
初期形状から、何らかの刺激により自発的に別の形状に変化させる成形技術のこと。

(※3)光重合
光の照射をトリガーとしてモノマーが連結し、ポリマーが生成する重合様式のこと。通常は、紫外(UV)光が用いられることが多い。

(※4)3Dプリンター(LCDタイプ)
UV光照射によりモノマーを重合させることで立体成形する手法のうち、液晶ディスプレイ(LCDパネル)により光の透過?遮断を制御して、箇所選択的にUV光が照射されるシステムのこと。

(※5)ガラス転移温度
固いガラス状態から柔らかいゴム状態に変化する温度。ガラス転移温度が室温以下であれば、そのポリマーは室温でゴムのように柔らかい性質を示す。室温以上であれば、そのポリマーは硬く難変形な性質を示す。

(※6)リンクル構造
表面に生成する"しわ"や凹凸構造のこと。

(※7)残留ひずみ
荷重を取り除いても残るひずみ量。残留ひずみが大きいほど、変形させた後に元の大きさに戻る度合いが小さいことを示す(変形が回復しない)。

論文情報

論文名:Digital Photopatterning: Designing Functional Multipolymeric Patterning Films
著者名:Haruka Fukunishi, Mikihiro Hayashi, Shuto Ito, Naoki Kishi
掲載雑誌名:ACS Applied Polymer Materials
公表日:2023年5月26日 (web-published)
DOI:10.1021/acsapm.3c00653
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsapm.3c00653

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科 工学専攻(生命?応用化学領域)
助教 林 幹大
TEL: 052-735-7159
E-mail: hayashi.mikihiro[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
TEL: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*[at]を@に置換してください。


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