澳门美高梅网址_澳门美高梅app-登录官网

图片

国立大学法人名古屋工業大学

文字サイズ
検索

News&Topics一覧

ホーム > News&Topics一覧 > プレスリリース:直線的な分子設計に革新、テトラフルオロスルファニル化合物 ― 特許性の高い化学材料としての活用に期待 ―

直線的な分子設計に革新、テトラフルオロスルファニル化合物 ― 特許性の高い化学材料としての活用に期待 ―

カテゴリ:プレスリリース|2023年07月05日掲載


発表のポイント

〇 非共役系の直線型連結素子テトラフルオロスルファニル(SF4)基を持つ新しい化合物群の合成に成功
〇 高い位置選択性、立体選択性でエナミン、ビニルエーテルと芳香環を非共役系で直線型連結
〇 反応は室温下、数時間で完結、遷移金属触媒不要
〇 特許性の高い医薬品、材料開発を推進

概要

 本学大学院工学研究科の柴田哲男教授(共同ナノメディシン科学専攻および工学専攻(生命?応用化学領域))らの研究グループは、芳香環とエナミン、ビニルエーテル部位が硫黄原子(S)を介して直線的に連結した、新しい化合物群の合成に成功しました。分子を直線的に連結する手法は、古くからパラ置換ベンゼンやアセチレンを連結素子に用いることで行われていますが、これらは共役系の連結のために分子の性質に大きな影響を及ぼします。最近になって非共役系のビシクロ[1,1,1]ペンタン(BCP)やキュバンを用いた新しい直線連結分子の合成手法に注目が集まっています。直線状構造を持つ分子は、構造的に美しいだけでなく、医薬品や機能性材料への応用が期待されています。今回、本研究グループは、六価の超原子価硫黄に4つのフッ素(F)原子が結合したテトラフルオロスルファニル(SF4)部位を連結素子とした、芳香環とエナミンが非共役的に直線連結した新しい分子骨格の創出に成功しました。本研究によってこれまでに存在しなかった特異な非共役系直線的SF4化合物群が合成出来るようになったことから、新しい材料や医薬品への活用が期待されます。

image.png

 本研究成果は、2023623日に独化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」のEarly Viewで公開されました。

研究の背景 

 分子設計の一つに、二つの分子を連結することで目的の性質を持つ物質を創出する考え方があります。連結する際には、どの位置でどのような結合でつなぐかが重要です。位置や結合の選択によって、分子の立体構造や電子状態が変化し、それに伴って物理的?化学的性質が変わります。連結する方法には、曲げたりねじったりする方法や、まっすぐにつなげる方法があります。まっすぐにつなげる方法を直線的連結と呼びます。2つの有機化合物を直線的につなげて新しい有機化合物をデザインする場合、パラ置換ベンゼンやアセチレンを連結部位として使用することが出来ます。この連結部位の距離は、パラ置換ベンゼンでは5.86?、アセチレンでは4.13?になります。パラ置換ベンゼンやアセチレンは古くから知られている連結素子であり、それらに代わる新しい連結素子の開発が求められています。特に、パラ置換ベンゼンやアセチレンで作られた直線的連結は、共役系(*1)と呼ばれる電子が広がった構造を持つため、分子の性質に大きな影響を与えます。このような状況のもと、BCPやキュバンという、共役系を持たない新しい直線的連結素子が注目されています。BCPの連結部位の距離は4.91?、キュバンでは5.73?で、これらの物質は二つの分子を連結することができます(図1)。これらの連結素子は、パラ置換ベンゼンやアセチレンと同じように、医薬品や材料に使われる部分骨格として機能しますが、共役系を持たないのが特徴です。

image1.png

図1.直線型連結素子として用いられる構造とその結合距離
   左からパラ置換ベンゼン、アセチレン、BCP、キュバン、およびSF4部位

 

 本研究グループはこれらの連結素子よりもさらに新しい非共役系の連結素子、SF4基に着目しました。分子を硫黄(S)原子で連結する場合、通常は100度程度に折れ曲がりますが、硫黄をフッ素(F)で酸化したSF4では、六価の超原子価硫黄(*2)とフッ素原子(*3)が平面四角形の形をとるため、3.66?の距離で二つの分子を直線的につなげることができます(図1)。これは、直線的連結素子の中では最も短い距離です。SF4を含んだ有機化合物は、1950年代にその存在が知られていましたが、合成方法が難しく、SF4化合物の合成研究は十分に進んでいませんでした。
 本研究グループは最近、芳香環とアセチレン基がSF4基を介して直線的に連結したSF4-アセチレン1を合成することに成功しました(図2)(*4)。SF4-アセチレン1は、分子を6.23?で直線的連結が可能であり、さらに芳香環部分とアセチレン部分がSF4の介在のために共役系にならない構造です。今回は、独自に開発したSF4-アセチレン1を出発原料とし、ヒドロアミノ化反応という反応を行うことにより、芳香環とエナミンという分子を、非共役的に直線連結した化合物群の位置選択的、立体選択的な合成方法を開発しました(図3)。エナミンとは、窒素原子(N)と二重結合した炭素原子(C)が含まれる分子で、医薬品や材料の合成に重要な役割を果たします。また、本手法をヒドロフェノキシ化反応へと展開し、芳香環とビニルエーテルという分子を直線的に連結した化合物の合成にも成功しました(図3)。ビニルエーテルとは、酸素原子(O)と二重結合した炭素原子が含まれる分子で、エナミン同様、医薬品や材料の合成に重要な役割を果たします。

image2.png

図2.本研究グループが最近報告したSF4アセチレン化合物 1

 

image3.png

図3.Superbaseを用いることで、室温反応、2時間、β位選択的、Z-選択的なヒドロアミノ化反応(上)とヒドロフェノキシ化反応(下)を実現(本研究)

内容

 標的とするエナミン化合物を合成するには、化合物1SF4が連結したアセチレン部位に対して、高い位置選択性と立体選択性でヒドロアミノ化反応を達成する必要があります。通常、アセチレン部位への窒素化合物のヒドロアミノ化反応は、100 ℃以上の高温と長時間の反応時間が必要で、α位やβ位の位置選択的、E体やZ体の立体選択的に目的物を合成することは簡単ではありません。そのためアセチレン部位の電子密度を高くし、遷移金属触媒(*5)や酸触媒(*6)でアセチレン部位を活性化しながら窒素化合物を付加させることで、ヒドロアミノ化反応を達成することが出来ます(図4)。

image4.png

図4.一般的なヒドロアミノ化反応

 

 ところがSF4-アセチレン1は、SF4が持つ強力な電子求引性と嵩高い特性のために、アセチレン部位の電子密度が極端に低く、遷移金属触媒や酸触媒で活性化することは困難です。そのうえ、遷移金属触媒や酸触媒がSF4部位のフッ素に配位してしまうと、SF4部位の分解反応が誘発されてしまいます。この問題を解決するため、本研究グループはジメチルスルホキシド(DMSO)とカリウム塩基の?tBuOKを組み合わせて超塩基(Superbase)を発生させ、アミンの求核性(*7)を極限まで高めることによって、ヒドロアミノ化反応をスムーズに進行させ、位置および立体選択的にZ体のSF4-エナミンに変換することに成功しました。基質の適応範囲は広く、様々な芳香環とエナミンがSF4で直線的に連結した化合物群をβ位選択的かつZ-選択的に速やかに得ることが出来ます。しかも反応は、室温下わずか2時間で完結することがわかりました(図5,上)。
 さらにアミンの代わりにフェノールを用いて、同様の条件でSF4-アセチレン1と反応させると、芳香環とビニルエーテルがSF4で直線的に連結した化合物群を、やはりβ位選択的かつZ-選択的に速やかに得られることがわかりました(図5,下)。

image5.png

図5.芳香環とエナミン(上)あるいはビニルエーテル(下)がSF4で直線連結された化合物例(一部抜粋)

社会的な意義

 医薬品や材料の設計において魅力的な非共役系の直線的部分構造を、これまで使用することが難しかったSF4素子に対する求核付加反応を用いて容易に合成出来るようになります。SF4構造はパラ置換ベンゼンやアルキン、BCPやキュバンの生物学的等価体(*8)として材料研究への応用が注目されている一方で、その合成研究は発展途上にあり、合成手法の開発が求められていました。
 本手法により合成可能なSF4含有直線状分子は、その構造の新規性が高いため、特許出願に有利になる物質群の宝庫となり得ます。また、フッ素を含んだ有機化合物は医薬品、農薬、化学材料として私たちの生活を大きく支えています。このことからも、直線状連結を含フッ素素子にて達成したことは、合成した分子群にフッ素化合物としての大きな可能性を付与し、SF4化合物の研究が動き出すことにつながります。

今後の展開

 今回合成されたSF4を含む直線状の分子群は、これまでに一度も作られたことのないものです。そのため、材料としての性質や医薬品や農薬としての可能性なども全く未知であり、どのような物性が見つかるか大いに興味が持たれます。今後は、この手法を基にして、高分子材料への応用や創薬のための分子設計などの研究が期待されます。

用語解説

(*1)共役系:多重結合(二重結合または三重結合)と単結合が交互に位置する構造。

(*2)超原子価:価電子が形式的に9個以上存在する原子。典型元素にしばしば見られる。

(*3)フッ素:ハロゲン族(フッ素F、塩素Cl、臭素Br、ヨウ素I)の一つの元素。医薬品、農薬や電子材料の製造に用いられる。歯磨き粉やテフロン性フライパンにも使用されている。

(*4)Synthesis of Pyridine-SF4-alkynes via Light-promoted Radical Coupling of Pyridine-SF4-chlorides and EBX Reagents, Mahmoud, E. M.; Iwasaki, H.; Hada, K.; Murata, Y.; Sumii, Y.; Shibata, N.*

Bull. Chem. Soc. Jpn. 2023, 96, 110-112. DOI: 10.1246/bcsj.20220330

(*5)求核性:炭素原子に対する求核攻撃のしやすさ。求核攻撃とは、電子豊富な化学種(求核種:Nu)が、電子不足な状態にある基質の反応部位に電子を与えるような反応。

(*6)遷移金属触媒:遷移金属の触媒作用を利用した触媒。遷移金属には他の分子との間で電子を容易にやりとりする性質があり、この性質が優れた触媒作用をもたらす。

(*7)酸触媒:反応物にプロトンを与えることで分子の反応性を高めるはたらきをする触媒。

(*8)生物学的等価体:医薬分子において生物学的に同じ役割を果たす他の部分構造のこと。薬物の主要生物活性に影響を与えることなく、医薬に含まれる官能基を他のもので置換えることで、医薬特性を改善させる目的に有効となる考え方。

発表者

Aggarwal Trapti研究員(研究当時)
羽田 謙志郎氏(工学専攻生命?応用化学系プログラム2年)
村田 裕祐氏(工学専攻生命?応用化学系プログラム1年)
住井 裕司准教授(工学専攻(生命?応用化学領域))
棚川 一裕氏(研究当時 生命?応用化学専攻)
新名 清輝氏(研究当時 生命?応用化学専攻)
森 聡一朗氏(研究当時 工学専攻生命?応用化学系プログラム)
Jorge Escorihuela教授(Departamento de Química Orgánica、 Universitat de València)
柴田 哲男教授(共同ナノメディシン科学専攻および工学専攻(生命?応用化学領域))

論文情報

論文名:Regio- and Z-Selective Alkyne Hydroamination and Hydrophenoxylation using Tetrafluoro-λ6- Sulfanyl Alkynes under Superbasic, Naked Anion Conditions
著者名:Trapti Aggarwal, Kenshiro Hada, Yusuke Murata, Yuji Sumii, Kazuhiro Tanagawa, Kiyoteru Niina, Soichiro Mori, Jorge Escorihuela, and Norio Shibata *(*責任著者)
雑誌名:Angewandte Chemie International Edition
doi: 10.1002/anie.202307090
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202307090

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科
教授 柴田 哲男
Tel:052-735-7543
E-mail:nozshiba[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
TEL:052-735-5647       
Email:pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


ページトップへ