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世界で初めて、セラックからの細胞接着性バイオマテリアル開発に成功 ~チョコレート菓子にも使用されているセラックを再生医療にも利用可能な細胞培養材料として展開~

カテゴリ:プレスリリース|2023年12月14日掲載


発表のポイント

〇 ラックカイガラムシが分泌し、チョコレート菓子や医薬品錠剤などの表面コート材としても産業利用されている天然樹脂状物質セラックから、新規バイオマテリアルの開発に成功
〇 セラックへのわずかな化学修飾によって哺乳類細胞に対する接着性が付与可能であることを世界で初めて明らかとし、バイオマテリアルとしての産業用途の開拓に成功。さらに光の照射により細胞接着性を失わせることも可能な光応答性バイオマテリアルの開発にも成功
〇 従来ある天然由来のバイオマテリアルに比肩する新素材として、医療分野および生物科学分野でのセラックの新たな産業利用が見込まれる

概要

 名古屋工業大学大学院工学研究科の砂川 祐莉乃氏(工学専攻 博士前期課程2年)、水野 稔久准教授らの研究グループおよび株式会社岐阜セラツク製造所は、ラックカイガラムシが分泌する天然樹脂状物質セラックから、新規バイオマテリアルを開発することに成功しました。セラックは、日本のみならず、欧米など世界各国で食品添加物や医薬品添加物として認められている身近な天然物の1つです(図1)。本研究により、わずかな化学修飾によってセラックに哺乳類細胞に対する接着性付与が可能であることを世界で初めて明らかとし、セラックのバイオマテリアルとしての新たな産業用途の開拓に成功しました。ヒトなどの哺乳類の細胞は、血球系細胞のような浮遊細胞と、表皮細胞や筋細胞、神経細胞などの接着細胞に大別されます。接着細胞の増殖には、何某かの培養基材への接着が必須で、セラックに接着性が付与されることで、これを元にした細胞培養材料の開発が可能となりました。

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図1 セラックを分泌するラックカイガラムシ、樹木の枝に分泌されたセラックと精製されたセラック粉末の写真(左)、セラックが表面コートされたチョコレート菓子の例(右)

 

 また、この化学修飾を、光により切断可能なCagedエステル(注1)の形で行うことで、光照射後に細胞接着性を持たない元のセラックに化学構造が回復可能であることがわかりました。これにより、光照射により細胞接着性を失わせることが可能な、セラックベースの細胞培養材料開発にも成功しました(図2)。

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図2 セラックからの光応答性細胞培養材料の開発
(水色にハイライトされたセラック修飾体の一部の化学構造が光により切断されることで、細胞接着性が失われる)

 

 この成果は、2023年11月17日に雑誌「ACS Applied Bio Materials」にて発表されました。

研究の背景 

 「細胞接着性?増殖性」と「生体適合性」、「生体吸収性」などを同時に備え、かつ十分な力学強度を持った樹脂性バイオマテリアルは、特に細胞や組織と直接接する医用材料を利用するスキャッフォールド治療におけるベース素材として、あるいは今後市場規模の大きな拡大の期待される細胞治療における細胞治療薬?細胞シートなどの大量調製のための要素技術として需要が高まっています。また、光などの外部刺激により細胞接着性や生体吸収速度が制御できることは、今後需要が高まることが予想される細胞治療薬の特定幹部へのリリースを可能とする細胞デリバリー材のベース素材としての展開も期待されます。
 天然由来の上記目的に合致したバイオマテリアル開発といえば、コラーゲンやゼラチン、キトサンやヒアルロン酸、蚕やクモ由来のシルクフィブロイン、トウモロコシ由来のゼインなどを用いた検討が主になされていますが、本研究成果による材料特性の異なる新たなバイオマテリアルの登場は、目的用途に応じた選択肢を広げることにつながります。

研究の内容?成果

 セラックは、樹脂酸とヒドロキシ脂肪酸の交互オリゴエステル(注2)からなる天然物ですが、哺乳類の細胞に対する接着性を全く持たないため、細胞接着性を持ったバイオマテリアルとしての開発は、世界的にも全くなされていませんでした。化学修飾を通したセラックに対する機能の拡張?新規機能の付与は長らく敬遠されていましたが、これは複雑な化学構造を持った高分子鎖の混合物であることで、選択的な化学修飾が難しいと思われていたことが原因と考えられます。本研究グループは、オリゴエステルであるならば、それぞれの高分子鎖末端には必ず1つずつカルボキシル基が存在するため、この末端カルボキシル基をターゲットに化学修飾を行えば、均一な物性付与が修飾残基ごとに得られるのではないかと考えました。
 細胞接着性?増殖性を付与するにあたり、エステル結合にて疎水?親水性の異なる一連の置換基を導入したセラック修飾体を合成し、このスピンコート膜上での細胞接着?増殖性の評価を、WSTアッセイ、共焦点蛍光顕微鏡観察などにより行いました。その結果、ベンジル基、トリフルオロベンジル基、ピコリル基などの、疎水性の芳香属置換基を導入したとき、効果的に細胞接着性?増殖性が付与可能となることがわかり、セラックからの細胞接着性を持ったバイオマテリアルの開発に世界で初めて成功しました。なお、このセラック修飾体表面では、線維芽細胞や表皮系細胞などに限らず、間葉系幹細胞についても接着?増殖が可能であり、間葉系幹細胞については、骨細胞への分化にも利用可能でした。
 また、光により切断可能なCagedエステルとして知られるヒドロキシアセトフェノン基を導入したセラック修飾体を合成し、光照射前後での細胞の接着?増殖性評価をしたところ、光照射前は効率の良い細胞増殖が見られたのに対して、光照射後では、細胞接着?増殖性が全くなくなることがわかりました(図3)。すなわち、光に応答して細胞接着?増殖性の変化が可能な、セラックベースのバイオマテリアル開発にも成功しました。

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図3 ヒドロキシアセトフェノンの導入されたセラック修飾体にNIH3T3細胞を播種したときの細胞増殖挙動の評価。青色の棒グラフは、光照射をしていないセラック修飾体に、NIH3T3細胞を播種したときの増殖挙動であり、ポジティブコントロールとなるカバーガラスにNIH3T3細胞を播種したとき(黒色の棒グラフ)と同様に、培養日数の進行に伴い効率の良い細胞増殖が見られた。一方で、光照射(340 nmを2時間)をした後のセラック修飾体では、全く細胞増殖性が得られなくなった(赤色の棒グラフ)。

社会的な意義?今後の展望

 セラックは、すでに産業的な生産プロセスが確立された安価な天然樹脂状物質であり、本研究によって新たに開発に成功した細胞接着性の付与されたセラック修飾体についても、安価な大量生産が可能です。したがって、コラーゲンやゼラチン、キトサンやヒアルロン酸、蚕やクモ由来のシルクフィブロイン、トウモロコシ由来のゼインなどと比肩可能な、天然由来の新たな細胞接着性バイオマテリアルとしての利用拡大が期待されます。近年、ゼラチンに対する化学修飾により得られるメタクリル酸修飾ゼラチン(GelMA)が骨の再生医療における新規培養基材として注目を集めていますが、天然由来バイオマテリアルに対する化学修飾による機能強化?機能付与の成功例という面において注目に値します。また、天然由来のバイオマテリアルは、「低い生体毒性」、「生体吸収性」、「高い生体適合性」などから再生医療分野での利用が特に注目を集めていますが、今後予見される食料問題への対応策としての培養肉、人工食品生産技術への利用も考えられます。さらに、光照射により細胞の接着性を変化可能な培養材料開発は、幹細胞や細胞シートの大量生産における要素技術のみならず、新たな医療技術開発にもつながる可能性があります。

 本研究成果は、 公益財団法人JKAの「2023年度機械振興補助事業 研究補助」の研究助成金の支援により行われました。

用語解説

(注1)Caged エステル
光分解性の保護基をカルボキシル基にエステル結合の形で導入したものをCaged エステルと呼び、光照射後はこの保護基が外れ元のカルボキシル基の状態に回復する。

(注2)樹脂酸と水酸化脂肪酸との交互エステル
セラックは、ジャラール酸、ラクシジャラール酸のような樹脂酸とアレウチチン酸のような水酸化脂肪酸が交互にエステル結合で繋がった、オリゴエステルからなる。

論文情報

論文名: Design of Cell-Adhesive Shellac Derivatives and Endowment of Photoswitchable Cell-Adhesion Properties
著者名: Yurino Sunakawa, Mai Kondo, Yasushi Yamamoto, Tomohiko Inomata, Yasumichi Inoue, Daisuke Mori, Toshihisa Mizuno*
掲載雑誌名: ACS Applied Bio Materials
公表日: 2023年11月17日
DOI: 10.1021/acsabm.3c00684
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsabm.3c00684

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科 工学専攻(生命?応用化学領域)
准教授 水野 稔久
TEL: 052-735-5237
E-mail: toshitcm[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
TEL: 052-735-5647       
Email: pr[at]adm.nitech.ac.jp

株式会社岐阜セラツク製造所
天然物抽出開発部 森 大輔
TEL: 058-272-0831
E-mail: gsm.rd[at]gifushellac.co.jp

*[at]を@に置換してください。


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